今日、朝のニュースの最後にやる星座占いのコーナーをみたらふたご座の順位が一位だった。
いつもは気にしないけれど、恋愛運絶好調だという自分の運勢が気になってラッキーアイテムまで覚えたのは、今日が教育実習生の会議があるからだろう。
女々しいなあ、と思いつつラッキーアイテムの青いハンカチをかばんにいれたところが本当に女々しいと思う。
今日は教育実習生全員が集められる会議がある。
星月学園の教育実習生が男だけというのは半分うそで、半分本当だ。
宇宙科の専属栄養士を目指して実習にきている女の子がいる。いや、女の子というよりは大学院生なので女の人だろう。
さすが栄養士の資格を持っているだけあって、バランスのとれた体系と透き通る肌、髪の毛の一本一本さえも手を抜いていないのがわかるくらい綺麗な女の人だ。知的なオーラを纏っており、生徒からは綺麗な人が最近学内にいると話題になっている人だ。
紅一点のあの子がお姫様だとしたら、彼女は女神だ。
宇宙科の教育実習生から取り囲まれていた
彼女。僕は会議室に入り浸る理由もないので足早に寮へ帰ろうと歩いていると、後ろから彼女の足音がした。あのパンプスは走ると音が響くってこの前言ったのに忘れたのかな。
「水嶋先生」
「なに」
「こんなところで聞くのは失礼かもしれないけれど、あの生徒のこと好きなの?」
「ああ、お姫様のこと?好きだよ。かわいいし、からかいがいがあるしね」
「そっか」
星占いに見入ってしまった原因である彼女は、しょんぼりした顔をしていた……ならよかったんだけど、彼女の表情は明るくて歪んですらいなかった。強いて言えば、少しむくれた顔をしたぐらいで。もうちょっとお姫様に嫉妬してくれないかなあ、女神さま。
彼女は廊下の真ん中でふわりと笑った。
僕のスーツのはしっこを掴むと、近くの教室へ引き込んで触れるだけのキスをした。
ふわっと香る、僕があげたシャンプーの香りとキスの強引さは嫌いじゃない。
「水嶋くんがあの子のこと好きでも、わたしは水嶋くんのこと好きだなあ、諦められないなあ」
「……なに、僕の顔が好きなの?」
「わたし、水嶋くんのそういうとこ嫌いよ」
「ああ、そう」
「そうだなあ、わたしは不知火くんがタイプだからなあ」
「ふーん」
「不知火くんの好きなところはね、いつでもみんなを…」
「あーうるさい、そんな話なら帰るよ」
「ねえ、水嶋くん。いま嫉妬したでしょ?」
「…してない」
「わたしの勝ちだね」
「してない」
僕の顔を覗き込んで嬉しそうな顔をする、なんでそんなに嬉しそうなんだろう。
嫉妬してもいいじゃん、君が悪い。
絶対口には出さないけど。
負けた気がする。
いくらお姫様をからかっても、一緒に居ても得られない感情を君はいとも簡単に僕へ与えるから、どうしたらいいかわからなくなる、時々。
さっきキスされたときの鼓動は君にしか僕に与えられないものだ。
いなくなったらどうしよう、たぶんまた無気力に生きてくのかな、そんなことをすぐ考えてしまう。考えたところでどうしようもないのだけど。
「だからしてないって…」
「あの子のこと、もう見ないで」
「そんなの無理だよ」
「ああ、見ないでっていうのは正しくないかな、わたし以外が見えなくなるくらい夢中にさせてあげる」
「まあ、そんなこと言ってる時点で君は僕に夢中なんだろうね」
「夢中じゃ悪い?」
「悪く、ないけど……」
「けど?」
「僕は甘えん坊なお子様がタイプだからなあ、あ、嫉妬した?」
仕返しだよ、なんてニヒルな笑みを浮かべたら、ぷいっとそっぽを向いてしまった彼女。
してないよ!と言ってくるかと思ったから、予想外だな。そういう子供っぽい仕返しをしてくるのはどちらかというとお姫様の方かな。
反応がかえってこない。
ちょっとおかしいなあと思って、彼女の顔が両手でかくれていたからちょっと強引に引き剥がして顔を見ると、ちょっとだけ涙が浮かんでいた。
「嫉妬…したわよ、悪い?」
まったく、まだまだだなあ。
こんなことで涙ぐむなんて。
メイクが落ちるからなにされても泣かないってこの前言ってなかったっけ?
まあ、そんなところがかわいすぎて放っておけないんだけれど。どんどんいじわるして構ってもらいたいだけなんだけれど。
ああ、今日もたくさん愛してしまいそうだ。
さっきの威勢はどこへやらな彼女の目尻に、僕は青いハンカチを押しつけた。
いらない、と言いながらもちょっと嬉しそうな顔をする僕の女神さま。そんな反応もかわいくて仕方無いんですが、どうしてくれるんですか。
仔猫になりたい女神さま
洗って返すからと言ってぎゅうっと青いハンカチを握りしめた君に、僕の心臓もぎゅうっとなったから思わずぎゅうっと抱きしめた
逆説からアルテミスの讃美歌様へ提出
2012.05.19